音のないサイレン②

「われらのあとに洪水は来たれ」

by フランス国王ルイ15世の愛人

「王の寵姫」ポンパドゥール夫人

 

僕「そもそも、なんで要介護老人や介護業界をほったらかしにしてるとみんなが困ることになるのか知ってる?」

 

同僚「まったく見当もつかない」

 

僕「....本当に素直だよね。良いことだよそれはwww」

 

僕「所謂「福祉・介護」っていうのは、つまりは「社会保障/バックアップ」のことでそれ自体にはなんの生産性もありません」

 

同僚「よく言われるよね。「なんの生産性もないし利益も産み出さない底辺職のくせに」って。まぁ確かにその通りだよね。莫大なコストと労力を費やして自分らが生産しているものといったら要介護や認知症老人の排泄物くらいなもんだわ」

 

僕「そのとおりやね。慢性的に便秘な老人たちにラキソベロンや、カマーやら酸化マグネシウムを内服させて(医療者の指示のもと)、「1日に何回、いつ糞尿を放出しました」ってチェックするのが重要なお仕事。下痢便と汚染したパットや衣類以外、生み出しているものが特にない」

 

同僚「....産み出しているもの....今回は「笑顔」やら「ありがとう」やら「感謝/感動」やらの介護業界の暗黒面が大好きなポエムには触れないことにするんだね!」

 

僕「重要な補足をありがとう」

 

同僚「どういたしまして。」

 

僕「でも実際は自分ら(介護職)が担っている役割というのは「人権」やら「尊厳」やらの、大仰なアレソレを脇にどけといたとしても、間違いなく社会全体に貢献しているであろうことが二つあります」

 

同僚「つまりどういうことだってばよ?」

 

僕「自分ら(介護職)が産み出している最も価値あるものというのは....」

 

同僚「価値あるものというのは....??」

 

僕「「他者の時間の創出」と「社会秩序の維持」の二つ。」

 

同僚「はっ?」

 

僕「「他者の時間の創出」というのは俺らなんの利益も産み出さない介護職に代わって世の中の優秀な、労働生産を担う人たちが働いたり生活したりする時間を作り出すこと」

 

僕「「介護離職」をする人たちが年間10万人?だかいるらしいんだけど、これは「介護職員が介護職を辞めることではなくて、親や親族の介護のために現役を退いてしまう一般の人たちの離職」のことなんさ。只でさえ人口減少で生産世代が減っているのに、GDPに影響するような「価値の生産」を担う人たちが「たかが介護」の為に現役を退いてしまう..!それってもう国家レベルの損失なんだよね」

 

同僚「つまりそれはレスパイトケアの事を言いたいってこと?」

 

僕「広い意味ではそう捉えてもらっても間違いではない。」

 

僕「もう一つの「社会秩序の維持」というのは...」

 

同僚「介護風情が調子に乗りすぎじゃない?所謂「社会秩序の維持」を担うのは、行政や警察や消防やインフラなんかのもっとカッコよくて華やかな人たちじゃないの?」

 

僕「それもそのとおりだね。行政やら警察やら消防やインフラや流通の人たちのおかげで世の中は回ってるんさ」

 

僕「でも、もしも3400万人いるこの国の神々(高齢者様)の中の、数十〜数百万の要介護や認知症の神様が誰の支援も見守りもなく野放しになったら....」

 

同僚「....徘徊して行方不明になるおじいちゃんおばあちゃんの捜索に、警察や地域の人たちは駆り出され、どこかで聞いたことのある、でたらめに通報やら救急車の要請する認知症老人たちによって必要な時に必要なところに機能も人員も追いつかなくなるかも。アルツハイマーじゃなくて前頭側頭型(ピック病)やレビー小体型認知症の人たちによる軽犯罪や暴走、例えば線路の中に入り込んだり、暴走車が高速道路を逆走したり歩行者の列に突っ込んだりがもっともっと頻繁に起こるようになったら確かに社会機能はめちゃくちゃになること間違いなしやんね。」

 

僕「因みに救急車の一回の出動にかかる費用は6〜7万円前後だそうです。もちろん費用は税金からでね」

 

僕「華やかでかっこいい(と思われる人もいる)警察官や消防士さんや役人様たちなんかは、自然界で例えるなら生態系の上の方にいるライオンや虎や豹、鷲や鷹や鯱やサメとかの捕食動物(プレデター)で、自分ら介護職や清掃員みたいな誰がどうみても地味でカッコ悪い(?)のは生態系の下層にいるバクテリアや微生物みたいな目に見えない腐肉食生生物、掃除屋(スカベンジャー)だってこと」

 

同僚「目には見えないけどそれらがいないと自然界は成り立たないんだよね。自然界=人間社会に置き換えるとなんとなく必要性がわからなくもない」

 

僕「アゾリウスやボロスやイゼットだけじゃなくて結局、ゴルガリ団も必要ってことなんよ」

 

同僚「ちょっとなに言ってるかわからない。」

 

僕「その生態系(社会の下層)を担う俺ら(介護職)がこの国ではあまりにも軽んじられ見下され、おとしめられ、冷遇されすぎている。今の状況じゃ、やる人間なんかいなくて当たり前」

 

同僚「キツイ・汚い・危険・給料安い・嫌われる の5K職で特に、日本にある全職業を63種に分類して比較した中で最下位の低賃金職。やってることが馬鹿馬鹿しい現状。笑える。」

 

僕「誰も認めないし理解もできないだろうけど、世代間格差が酷すぎるこの国では、言い方悪いけど勝ち逃げ世代の高齢者様と上級国民の富裕層さまたちと、それを支える若年層と下層民に世界がくっきり分かれている」

 

僕「それも所謂「自己責任」ってことらしいけどね。第1、第2身分の聖職者と貴族様たちと、それを支える俺ら第3身分の平民たち。中世と呼ばれていた時代のシステムと今ってなにが違うのかな?」